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福島県の入札はなぜ「同額くじ引き」になるのか|公開算定式が生む必然と応札者の戦略

福島県の建設工事の入札結果を眺めていると、複数の会社がまったく同じ金額を入れ、最後は電子くじ引きで落札者が決まる――そんな場面がめずらしくありません。真剣に積算した末の入札が、最後は抽選で決着する。理不尽にも、運任せにも見えます。

しかしこれは偶然でも不運でもなく、福島県が算定式を公開しているという制度の性質から生まれる、構造的な帰結です。別の記事で「福島県の最低制限価格をどう計算するか」を分解しましたが、本記事はその先――「なぜ計算した会社どうしが同じ額に行き着くのか」を扱います。同額くじ引きの正体が分かれば、そこで何を競っているのか、応札者に何ができるのかも見えてきます。

下限が「たった一つの値」に決まるという前提

同額入札が生まれる出発点は、最低制限価格が案件ごとに一つの値へ収束する、という点にあります。

多くの入札で下限は伏せられ、応札者は手探りで見当をつけます。ところが福島県は、最低制限価格等を導く算定式そのものを公表しています。費目に掛ける係数も、上下限の範囲も、途中の端数処理も、公式に決められて動きません。この「式が固定されている」という事実が決定的です。入力さえ同じなら、誰が計算しても出てくる下限は同じ一つの値になります。

つまり最低制限価格は、発注者の恣意で揺れる曖昧な線ではなく、予定価格が定まればそこから機械的に導かれる、再現可能な数値だということです。ここが同額くじ引きの土台になります。

精度を上げるほど、みなが同じ額に近づく

下限が一意に決まるなら、あとは応札者がその値をどれだけ正確に言い当てられるかの勝負になります。そして皮肉なことに、各社が積算の精度を高めるほど、答えは同じ一点へ集まっていきます。

普通の商売では、努力して工夫すれば他社と差がつきます。ところが公開された式のもとでは、努力の行き着く先が全員同じ「正解」なので、精度を極めた会社ほど互いの見積もりが一致してしまう。差をつけるための精進が、かえって差を消してしまうのです。結果として、実力のある複数社が下限ちょうどの同じ金額に並び、決着は抽選に持ち込まれます。同額入札は精度の低さではなく、むしろ精度の高さが飽和した状態だと言えます。

鍵は「予定価格の再現」

では、その一点を言い当てるために何を再現すればよいのか。核心は予定価格です。

福島県では、予定価格が入札の後に公表される仕組みになっています。下限を導く最低制限価格等も同じく、開札を経てはじめて表に出る値です。そしてその下限は、予定価格を出発点として式から計算されます。したがって、発注者が組んだ予定価格を自社で正確に組み立て直せれば、そこから下限も逆算できる、という関係になります。

予定価格の再現とは、設計図書を読み解き、数量を正しく拾い、適用時点の単価と諸経費で積み上げて、発注者と同じ土俵で金額を作り直す作業にほかなりません。この再現度が高い会社ほど下限をぴたりと当て、同額入札の輪に入っていきます。逆に、数量の拾い漏れや古い単価が一つ混じるだけで、下限は数円から数パーセントずれ、くじ引きの母集団にすら残れません。

落札は「価格の優劣」から「確率」へ

同額に到達した会社が並んだ時点で、勝負の性質は変わります。もはや誰が安いかではなく、抽選で誰が引き当てるかの問題になるからです。

これは、精度を高めることの意味を冷静に捉え直すことを迫ります。正確な積算は、くじを引く権利を得るための入場条件です。それができなければそもそも土俵に上がれない。しかし土俵に上がった先は確率の世界で、精度だけでは勝ち切れません。積算の精度は「勝つための十分条件」ではなく「戦いに参加するための必要条件」だ――この線引きを持っておくことが、消耗しないための現実的な構えになります。

だからこそ、応札者にできることは二つに整理できます。一つは、下限を正確に読み切って確実に土俵に上がること。もう一つは、参加する案件を選び、同額到達の再現性を安定させて、抽選の母集団に居続けることです。運任せに見える世界でも、母集団に入り続けられるかどうかは実力で決まります。

ただし、市町村では話が違う

ここまでは福島県が公表する固定式を前提にした話です。県内でも、市町村になると事情が変わる点には注意が必要です。

たとえば会津若松市やいわき市は、開札のたびに無作為の係数を乗じて最低制限価格を動かす「変動型(ランダム係数)」を導入しています。これは、下限が事前に一点へ定まってしまう固定式のもとで同額くじ引きが多発する状況を、制度の側から崩す狙いを持った仕組みです。変動型の案件では下限を一点に当てにいく発想そのものが通用せず、点ではなく分布で構え、期待値で考える戦い方に切り替わります。同じ「福島県内の入札」でも、県の固定式なのか市町村の変動型なのかで、取るべき戦略はまるで違います。本記事はあくまで、県が公表する固定式の構造に絞って整理しました。

同額くじ引きは、発注者が算定式を公開しているからこそ起きる現象です。その必然を理解したうえで、下限を正確に読み、母集団に居続ける――そこに、運任せに見える入札を実力の勝負に引き戻す余地があります。


福島県の最低制限価格を、費目から逆算してみる

下限を一点で言い当てる作業は、そのまま試せるツールとして公開しています。費目ごとの金額を入力すると、公開算定式に沿って最低制限価格等と対予定価格の落札率を計算します。同額に到達できる位置に自社があるか、まずは数字で確かめてください。 → 最低制限価格 逆算エンジン(福島県)

図面精査から数量拾い、予定価格の再現、最終的な金額判断までの積算精度の伴走は、ディベル合同会社がご相談を承ります。 → ディベル合同会社に相談する

本記事は公開された制度資料・算定式に基づく解説です。実際の適用可否や数値、変動型制度の有無は、入札公告および各発注機関の最新の要領で確認してください。係数・単価・制度は改定頻度が高いため、応札時点の基準で再確認することをおすすめします。

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