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最低賃金が上がり続ける時代の「人時生産性」と価格転嫁——値上げの前にやること

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最低賃金は、これからも上がり続けます。時給が上がること自体は働き手にとって望ましいことですが、店の側から見れば、何もしなければ人件費だけが膨らみ、利益が静かに削られていくということです。やがて「もう値上げするしかない」という結論に行き着きます。

ただ、いきなり値段を上げると、客は離れます。値上げを「お願い」ではなく「説明できる値付け」に変えるには、その前に踏むべき順序があります。その順序を貫く1本の軸が、人時生産性という数字です。この記事では、人時生産性とは何かを押さえ、それを自店で測り、最後に価格転嫁へどうつなげるかまでを、一続きの流れとして解説します。

軸になる数字:人時生産性とは

人時生産性とは、ごく単純に言えば「働く人が1時間でどれだけの粗利を生んだか」です。粗利益を総労働時間で割れば出ます。たとえば、ある月の粗利を、その月に全員が働いた延べ時間で割る。出てきた数字が、自店の人時あたりの稼ぐ力です。

なぜ売上ではなく粗利か。売上が大きくても、原価が高ければ手元に残りません。なぜ人数ではなく時間か。人件費は「何人いるか」ではなく「何時間働いてもらったか」で発生するからです。最低賃金が上がるというのは、この「1時間あたりのコスト」が上がるということ。だからこそ、同じ「1時間あたり」で稼ぐ力を測る人時生産性が、最賃時代の経営を診る中心の物差しになります。

道具として使う:自店の人時生産性を測る

考え方が分かったら、実際に自店の数字を出してみてください。やることは2つだけです。

ひとつは、ある期間の粗利を出すこと。売上から、食材や仕入れなどの原価を引いた額です。もうひとつは、同じ期間の総労働時間を出すこと。社員もアルバイトも、経営者自身が現場に入った時間も含めて、全員の労働時間を足し合わせます。この粗利を総労働時間で割れば、自店の人時生産性が出ます。

一度出して終わりにせず、月ごとに並べてみると、もっと役に立ちます。忙しいのに人時生産性が低い月は、人手をかけすぎているか、原価が膨らんでいるサインです。逆に、この数字が改善していけば、時給が上がっても利益を守れる体質に近づいているということです。人時生産性は、努力の成果が見える「経営の体温計」になります。

答えへつなぐ:価格転嫁は「順序」で考える

ここで多くの経営者が、すぐ値上げに飛びつきます。しかし価格転嫁は、最後の一手です。先に企業努力を尽くしておかないと、値上げの根拠を自分でも説明できず、客にも伝わりません。順序は3段階で考えます。

第1段階:運営の無駄を削る。 まず、人時生産性を下げている要因を現場から潰します。手待ち時間、二度手間、過剰なシフト——これらを見直すだけで、同じ売上をより少ない労働時間で回せるようになり、人時生産性は上がります。値上げをせずに利益が改善する余地は、たいてい現場に残っています。

第2段階:稼ぐ力そのものを上げる。 次に、1時間あたりの粗利を積極的に高めます。原価率の高いメニューの見直し、客単価を上げる工夫、仕込みや調理の段取り改善など、「同じ時間でより多くの粗利を生む」方向の打ち手です。ここまでが、客に負担を求める前にやりきるべき企業努力です。

第3段階:それでも足りない分を、価格に転嫁する。 1段階・2段階を尽くしてなお、上がり続ける人件費を吸収しきれない分が残ります。その残りを、初めて価格に乗せます。このとき強いのは、「コストが上がったので値上げします」ではなく、「ここまで効率化と工夫を尽くしたうえで、どうしても必要な分だけお願いします」と言える状態にあることです。人時生産性という数字で自店の現在地を把握していれば、いくら転嫁すべきかも数字で示せます。

値上げを「説明できる値付け」に変える

最低賃金の上昇は止められません。だからこそ、上がるコストに振り回されるのではなく、人時生産性という1つの数字を軸に、運営の効率化 → 稼ぐ力の向上 → 必要な分だけの価格転嫁、という順序で対応していく。この順序を踏んだ値上げは、場当たりの「お願い」ではなく、根拠のある「値付け」になります。

まずは今月、自店の人時生産性を一度だけ計算してみてください。粗利 ÷ 総労働時間。その1つの数字が、値上げに踏み切る前にまだやれることがあるのか、それとも転嫁すべき段階に来ているのかを、はっきり教えてくれます。

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